ランナーも歯が命

2014-11-01

藤井佳朗 新神戸歯科院長

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歯のかみ合わせが全身の健康と密接に関わっているということは、皆さんもご存知と思いますが、どのようなメカニズムがあるのでしょうか。

歯にはものを噛む、発音を助けるという機能以外に「全身を支える」という最も重要な機能があり、この全身を支えるという機能がスポーツパフォーマンスに大きく関係しています。

噛み合わせは全身の筋肉や骨格に多大な影響を与えます。噛み合わせが悪いと、まず筋肉に影響が及びます。おかしな噛み方を長期間続けていると、顎の周りの筋肉に無理な力がかかり、疲労感や痛みが生じます。すると、これらの筋肉とつながっている首すじの骨や筋肉にも影響が及び、首はもちろん、腕や肩、背中にも痛みが広がっていきます。顎の骨は全身の骨とつながっているので、顎の骨や顎関節がゆがんでくれば、そのズレは脊柱から骨盤さらには全身の歪みへとつながるわけです。この歪みが、手足のしびれ、腰痛、ひざ痛、股関節痛などの原因となります。わずか、1本の歯の数ミクロンの噛み合わせのズレが、背骨を歪ませてスポーツ選手が実力を発揮できないこともあります。

実際アメリカの大リーグでは、噛み合わせを調整することが契約条件に入っているほど噛み合わせは重要なことです。ヤンキースに入団した松井選手が歯を治療させられたことは記憶に新しいことでしょう。しかし、日本ではスポーツにおける歯の重要性がまだまだ浸透していません。

スポーツパフォーマンス向上の目的で噛み合わせ治療を積極的に取り入れることにより、スランプを脱出したり、成績が向上できたケースを紹介します。

箱根駅伝の常連である山梨学院大学は、平成4年の初優勝から4年間で3回の優勝という実績を持っていましたが、その後順位を下げ、昨年まで3年連続9位とシード権確保がやっとの状態でした。低迷期を脱するための起爆剤として選手に噛み合わせの治療をすることにより、出雲駅伝で優勝、全日本駅伝で準優勝、そして本年の箱根駅伝準優勝(往路は新記録で優勝)という好成績をおさめました。また、過去3年の優勝時にも噛み合わせの治療を行っていたことは、一部の関係者を除いてあまり知られていないことですが、好成績と噛み合わせの治療をした期間との一致を考えると、噛み合わせがスポーツパフォーマンスの向上に非常に重大な影響を及ぼしていることが考えられます。

また、ある実業団の選手は2年前から腰痛に悩まされ、整形や鍼灸などありとあらゆる治療を施したが痛みは治らず、自己ベストタイムから90秒遅れる状態にありましたが、噛み合わせの治療をわずか3回受けただけで、治療前に比べ5000mのタイムで約60秒も短縮し、腰痛もかなり軽減しました。

では具体的な治療法ですが、噛み合わせの治療としてスポーツ選手によく知られているものにマウスピース(スプリント)があります。マウスピースを装着することにより、様々な全身の状態が改善されることもありますが、人それぞれ体型や顔貌が違うように、噛み合わせも千差万別です。ですから、全ての人がマウスピースを装着することによりスポーツパフォーマンスの向上が見られるものでもありません。かえって身体へ悪影響を及ぼす場合もあります。また、1本の歯を数ミクロン削っただけで、骨盤にズレが生じる場合もあります。

最近の研究で、歯の詰め物やかぶせる金属の種類によっても、身体の柔軟性、平衡感覚などに多大な影響を及ぶことが分かってきています。

全身への影響を考えた噛み合わせの調整は、最新の技術であるため、まだまだ実施している歯科医院が少ないのが現状ですが、専門医を訪ね全身の状態と噛み合わせをチェックしてもらうことにより、充実した練習と実り豊かな競技生活を手にすることが期待できます。

何年か前に「芸能人は歯が命」という言葉が流行りましたが、「ランナーも歯が命」なのです。